aoi iro no tori

だんだん離れてゆくよ アルペジオのように トリルでさようなら 別れを惜しむように ──日常のおはなし──

おろし金


 一つ選んでもいくつ選んでもいいよね。



*両方美味しいと分かってよかったよ

 夏に鬼おろしぶっかけうどんがSNSで話題になっていて(少なくとも私のTL上では)鬼おろし気になる……と思いながらこの夏も40年近くずっと使い続けているおろし金を使っていました。ちょっと物持ちがいいなと思う。
 でも更に遡ると「私このおろし金ですりおろした大根の味しか知らずにしんでいくのかな」とも思っていておろし金自体にはけっこう前から探りを入れていました。外食の場合の大根おろしは除いてね。
 さくっと調べたら竹製の鬼おろしが良いらしい。でもプラスチックから始めるのも良いらしい。水気を切るスノコ付きというのもある。プラ製のものには普通のおろし金の機能や薬味おろしもついている。
 ステンレス製というのもあったけど切れ味が物凄く良い、というレビューが多く、自分で使うにしろ家族が使うにしろ危険が伴うので最近加害妄想が酷い身としてはステンレス製のものは避けるしかなかった。また考えが変わったら使ってみたいと思うかもしれない。
 悩みに悩んで、どうしても竹製とプラ製とスノコ付きの三つ以下には絞れない。たまらず母に相談すると「三つ買っちゃえば?」と思わぬ肯定の声が上がった。いつもなら一つに絞りなさい、余計な買い物はしないように、と口酸っぱく言われてしまうのに。
 あまりにも意外だったため「この三つで悩んでてね……」とより詳しく話した。
 スノコ付きのものは「吊り下げられないからたぶん使わなくなると思う。自分がそうだったから」と言われ、ほかの二つに関してはなにも言われなかった。
 スノコ付きのはナシにしよう……と一つ絞って、では残った二つにするか。と思ったけどそもそも私は鬼おろしがほしいだけで鬼おろしの保険は要らないんじゃないか。もし竹製の鬼おろしがどうしようもなくだめだったらプラのやスノコ付きを試せばいいんじゃないか。
 と思うとプラ製のものもすんなり諦められた。肯定してもらえると自分で考える力が付くな、なんて思いながら。
 そうして竹製の鬼おろしだけをお迎え。
 初日にうどんに入れる大根をすりおろしてみた。普通のおろし金と同じように洗濯板をこするが如く前後にする感じで。食べてみたらガリガリというかジャリジャリというかとにかく全然美味しくない。うどんも美味しくなかったんだけど大根もなによこれというくらい美味しくない。
 竹製の鬼おろし……失敗だったかなとスノコと付きとプラ製の鬼おろしをカートに入れる。でも買わない。もう少し信じてみたい。
 その数日後、モサモサでどうしようもないリンゴをすりおろしてみてくれと母に言われて、また普通にすろうとしたのだけどどこかのレビューで「引くようにすると美味しくおろせる」と書いてあった気がして(本当にあったかどうかは失念しました)、ひと欠片は普通にすりおろして、もう一つは引くようにおろしてみた。
 モサモサはモサモサなんだけどちょっと美味しい気がする。少なくとも塊のままで食べるよりは美味しい。
 また日が経ってまたリンゴを頼まれて今度は完全に引くだけですりおろしてみた。モサモサ感は少し残るけど美味しい。ふわふわのと少しシャリシャリすらしている。
 鬼おろしがいけないんじゃないだ。私の技術が足りなかったんだ。
 思わず鬼おろしに謝罪と感謝をしてしまう。
 まだ大根には再チャレンジできていないけど、鬼おろしが前より好きになりました。
 普通のおろし金も汁濁で美味しいし、鬼おろしも美味しい。
 どれか一つに絞る必要はないし選択肢はいくつあってもいい。そこから選び取ってもいい。
 でも身の丈は考えてもいいのかもしれない。
 私の場合は40年近く使い続けているおろし金と竹製の鬼おろしで行きます。今のところは。
 とても難しいことだけど人の考えは水に染まる絵の具のように色や姿が変わるので今のところは、と書くしかない。
 100年ずっと同じ考えの人はきっといないと思う。