aoi iro no tori

だんだん離れてゆくよ アルペジオのように トリルでさようなら 別れを惜しむように ──日常のおはなし──

2022年8月に読んだ本


 先月後半は文章を読めなくなっていてつらかった。今月はできたら読みたい本がたくさんある。

*8月に読んだ本



十六の墓標(上下・続)
/永田洋子

 山岳ベース事件、あさま山荘事件などを起こした連合赤軍のトップ幹部の一人であり死刑が求刑されていた(死刑執行前に逝去されました)方の自叙伝的随筆です。
 レビューで「主体性がない」と散々言われていてよく分からなかったけど読んだらなんとなく把握しました。主体性がないです。あと若干、少し、けっこう言い訳っぽい。
 こう思ったからこうした・こう思って発言した、の「こう思った」の部分が希薄すぎて革命に参加しようとした意志すら希薄に感じられる。流されるままに革命に参加したようにも感じられ、「ではなぜトップ幹部に?」というようにも思えた。
 下巻以降は諸事情でななめ読みしかしていないのだけど「小柴さんの死体の埋葬をすることで総括すればいいんじゃない?」と著者は金子さんに言ったそうだけどどういう感情で言ったのかが明記されていないのでオタサーの姫のようにも、まるで感情がないままの発言にも読めてしまう。
 いや総括、自己批判、オルグなど独特の言い回しも当時を知らない私にとってはオルタナティブ・中二病っぽくてよく分からないのだけども。
 著者がどういった思いで革命活動を始め、事件のときどう思ったのか、を知りたくて本書を読むとかなり肩透かしを食うので起こった事実のみを知りたい人向けな気がしました。
 でもそれだと今はウィキペディアという便利な辞典があっての……みたいなことにもなる。読みたい人にだけしか向いていない本のように感じるし、多からず私はもう読まないと思う。



芸人たちの芸能史
/永六輔

 家で読んで電車移動中でも夢中になって読みました。古本で注文して私より10年近く年上の1975年の初版本がやってくるという。運がいいのか? 悪いのか? 初版かどうかには全くこだわっていなかったけれど父の親しんだ本を読んでいるかのような感覚で、多分に古本のにおいがしました。
 内容ですが、「人間国宝から女子プロレスラーまでが河原乞食で、旦那とは神からあなたまでを指します」という言葉で始まっています。
 天岩戸にお隠れ遊ばした天照大御神が思わず見たくなったほどのアメノウズメの淫蕩な踊りってどんなもの? みたいな話や河原で念仏踊りを踊った出雲阿国が歌舞伎の始まり(歌舞伎という言葉についての言及もあります)とし、出雲阿国もまた性を消費する存在であったこと、戦後に流行ったストリップ、芸事というのはそもそも「男を売る・色を売る・芸を売る」というものの一つで、どうしても任侠の世界と切り離すことができないものである、ということが端々に書かれていました。
 芸能というものに興味がなさすぎてテレビに出る人の顔が覚えられないことで家族内外に定評のある私です。そんな私にすら分かるように丁寧かつ詳細に読み物としてヘアピンカーブのスレスレのところを渡るようなキレのある一冊を提供してくださいました。
 本書の描かれた時代背景がちょうど母の青春時代だったこともあり、話をすると当時のテレビの様子を思い出した母が嬉しそうでした。
 母もテレビっ子だけど父も負けず劣らずのテレビっ子だったので父もこの本が好きかもしれない。そう思い、読了後父の仏壇に置いてみました。読んだ父とお酒を飲んで語り合いたい。
 冷淡な言い回しと愛のある文章で温度差が激しい本ですが私はこの本が大好きになりました。また程よく忘れたら読みます。初版本ということもあってなのか、紙が傷んでいるのでもう一冊予備で買い直すかもしれないけど。



ドリフターズとその時代
/笹山敬輔

 先月も少し触れましたが1979年生まれの著者が見てきたようにエノケン、ロッパ時代からドリフターズ、コント55号辺りのことを書いています。私と同青春時代の1990年代についても触れられています。
 今年出版された本なので志村けんさんの死と、出演するはずだった映画や連続テレビ小説「エール」についても少し触れられています。
 主軸になっているのはいかりや長介さん、加藤茶さん、志村けんさんの三人のように感じました。もちろん荒井注さん、仲本工事さん、高木ブーさんについても書かれています。
 主軸になっているというかメンバーのなかでも特に悲しい幼少期を過ごした三人の過去にスポットライトが当たっている、ように思えました。
 いかりや長介さんは苦学生で働きながら家にお金を入れて、毎月一度だけ映画を観られるチャンスがある。映画館に行くまでも誘惑が多くて映画を諦めてラーメンを食べようかという思いが過る。結果としていかりやさんはエンタテインメントは裏切ってはいけないというように思うようになるくだりがとても読んでいて苦しかった。
 いかりや長介さん、荒井注さん、仲本工事さん、高木ブーさん、加藤茶さんのバックボーンにあるのはコミックバンドで、あくまでもバンドであるという自負が大きいというのはお恥ずかしい限りで存じ上げませんでした。お笑い集団だと本気で思っていました。
 その原因としては志村けんさんの存在が大きいと思います。本書ではカトちゃんケンちゃんごきげんテレビとその後ウッチャンナンチャンの大きなヒット作となったウッチャンナンチャンのやるならやらねばについても触れられているのですが、じりじり人気があった(ように感じていた)「となりのシムラ」についてはなかったことにされているように触れられていません。あれも自虐的でしたが面白くて好きなコントだったのでどのように触れられているのか楽しみにしていたんですけどね。
 ドリフターズの成り立ちについて詳らかに学べる本でした。群像劇っぽくて読み応えがあります。けど、志村けんさんは志村けんさんで一冊の本にまとめたほうが読みやすいかなあ。



R15+じゃダメですか?(1巻)
/作画・裏谷なぎ 原案・岸谷轟

 エンタテイメントの主に恋愛や性的なものを親に禁じられた秀才の女の子・天羽秋音がふとしたことで、映画研究会で映画ばかり観ている少年・冬峰や同じ会の風変わりな先輩・かなこと出会い、R15な作品やそうではない作品に触れて成長していく(であろう)、劇中サブカルチャー色の強い漫画です。映画の紹介の仕方が自然でとても上手く、各話終了後の「今回のR15作品はこちら」という原案の岸谷轟先生による映画解説もまた各々の映画を観たい気持ちが高まるという相乗効果を生んでいます。2巻は10月発売予定とのことで大変楽しみにしております。
 呪いのVHS回がけっこうじわじわ怖かったです。コミックDAYSでリアルタイムの雰囲気も楽しむとより一層怖く感じられるかもしれません。
 裏谷なぎ先生作画による秋音、冬峰、かなこ先輩もとてもかわいく、かつコミカルに描かれています。
 読み返していて思ったけどかなこ先輩のかなこって本名じゃなかったんだ!
 胡桃沢桜花さんが何故かなこ先輩という愛称で親しまれているかは読んで確認してみてください。



トモダチゲーム(1巻から7巻)
/作画・佐藤友生 原作・山口ミコト

 タマロワの作者・山口ミコト先生原作の漫画です。ドラマも放映されていますね。
 友一は本来の性格は頭はキレるけど人間的感情に欠けるみたいな感じなのかな。
 タマロワは「良かったね」で終わるけどトモダチゲームはなんというか友人だと思っていた人物を虱潰しに疑ってかからないといけないので「良かったね」の終わりが想像できない。
 表面上は全員仲が良いけれど一方で脆く、薄氷を踏むような関係性でもある。
 怖いもの見たさでついつい読んでしまう。



乙女ゲーに転生したけど筋肉で解決します(1巻)
/ダル子

 頭を空っぽにして読むことができる非常に稀有なコメディー少女漫画です。主人公がかなりの鈍ちんで筋肉バカなだけなのに攻略対象の男の子がみんな籠絡されていく様は圧巻。
 クロ(主人公)もいつか恋に目覚めるのだろうか……それは見てみたいけれど少し残念なようにも思う。そのままの君でいて。



悪役令嬢レベル99─私は裏ボスですが魔王ではありません─(1巻)
/作画:のこみ 原作:七夕さとり

 コツコツ作業が好きな陰キャオタク女子が転生するとこうなる……みたいな。
 試しに1巻だけ読んでみようと思ったら面白くて2巻も買っていました。
 今のところメイン攻略対象キャラクターにはまんべんなく嫌われているようだけどこれから将来的にどうなるのか、コミュ障令嬢・ユミエラ(主人公)に心を許せる人が登場するかも気になる。



チ。─地球の運動について─(1集)
/魚豊

 すごく流行っているけど流行る前から気になっていたんだからね! というのは半分本当半分冗談で、タイミングがなかなか合わずやっと手に取ることができたという言い方が近い。
 主人公はどんどん代わって行くのかな? 地動説を信じ、それを新しい世代に託すように。
 地球とヨーロッパは出てくるけど宗教は架空の宗教みたいな感じで。C教。
 聖☆おにいさんも海外ではほぼ読めないそうだし、チ。も難しそうだな。
 けどもっと周知されてほしいと思う。アニメ化も決定したので良い方向に広まるといいな。
 2集以降も読みます。



アイドルについて葛藤しながら考えてみた
/香月孝史、金巻ともこ他

 金巻ともこ先生は実はライターになられる前から存じ上げているのですがそこを突っ込むと変な話になるのでやめておこう。私がPerfumeを知ったきっかけも金巻ともこ先生です。
 難しい話がいっぱい出てくるなかで、私としては最もアイドルについて葛藤しながら考えている文に思えました。あととても読みやすい。
 性的な視線って難しいよな……と思うよね。男性から女性にというのは一番多いけど女性から男性に、男性から男性に、女性から女性に、もある。それらに当て嵌まらない場合も。

 自分語りで申し訳ないのだけども先日ゲームのイベントでコスプレしたキラキラ眩しいお姉さんにチケットの順番を訊かれたんですね。
 そのお姉さんのお胸がかなり豊満でして、一秒くらい胸に意識がいってしまって「あ! これあかんやつ!」と思って慌てて自分のチケットの番号を言ったのだけど「絶対見てはいけないところを見た」という罪悪感が半端なかった。あれも性的視線の一種だろうなあ。あのときはお姉さんすみませんでした。
 私ももう少し性的視線の先のことを考えようと思います。

 以上、今月読んだ本は再読含めて17冊かな。本を読むのきっつーと思いながらわりと読んでいました。月の後半はほとんど読んでいませんでしたけど。
 今月読破しておきたいのはずっと読みっぱなしの連合赤軍「あさま山荘」事件ですね。
 とても読みやすいのですいすい読めてしまうけど上辺をなぞっているだけのこともあって読み込もうと思うと時間がかかる。
 あとは先月発売になったThisコミュニケーションの最新巻、神食の料理人、憂国のモリアーティ、逃げ上手の若君、ダンジョン飯、凪のお暇、等々たくさんあります。
 読みたい本の一つに佐藤愛子先生の戦いやまず日は暮れずがあるのだけど文庫になってくれないかしら。九十歳、なにがめでたい。の文庫版も読みたかったけど字が大きすぎて挫折しました。電書版で我慢します。

 それではまた来月お会いしましょう。